クリッターカントリーの人気アトラクション「スプラッシュマウンテン」。TDLの絶叫系アトラクションとして高い人気を誇っています。
クリッターカントリーに足を踏み入れると、ディズニー作品ではあまり見かけたことのないウサギやキツネ、クマなどのキャラクターが出迎えてくれます。
また、「スプラッシュマウンテン」には軽快なテーマミュージックが流れています。
これらのキャラクターや音楽が、アトラクションのために作られたオリジナルキャラやBGMだと思っている方も多いのではないでしょうか。実はこれらのキャラクターや音楽は、ある作品からとったものなのです。
流れている曲は、古いディズニー映画『南部の唄(うた)』(1946年)の主題曲です。曲名は「Zip-a-Dee-Doo-Dah(ジッパ・ディー・ドゥー・ダー)」といって、1947年アカデミー賞の歌曲賞を受賞している曲です。
原作と映画のあらすじ
ディズニーが映画化した『南部の唄』は、ジョーエル・チャンドラー・ハリス著の『リーマスおじさん』シリーズという作品で、1880年に刊行されました。
都会から南部の農場へ移住してきた白人の少年ジョニーと、農場で下働きとして働く黒人のリーマスおじさんとの交流を、ディズニーお得意の実写&アニメーションで描いた感動作です。
ジョニーはアトランタから南部の農場へ引越してきましたが、仕事の都合で父親はアトランタに戻らなくてはならず、母親と2人で寂しい思いをしていました。そんな彼のさびしい心の隙間を埋めてくれたのは、農園で働く黒人のリーマスおじさんが話してくれるおとぎ話でした。
おとぎ話に登場するのは、とても賢いうさぎどん。それに、意地悪なきつねどんやくまどん。物語の中でうさぎどんは、どこかにあるという”笑いの国”を目指して旅立ちます。リーマスおじさんは楽しいおとぎ話を通じて、いつも大切なことを子どもたちに教えてくれるのです。
ジョニーは農園で友達になった黒人の少年トビーや、近くに住んでいる少女ジニーと共に、リーマスおじさんのお話に夢中になりますが、ジョニーのお母さんはというと、ジョニーが黒人のリーマスおじさんと親しくなるのを快く思っていませんでした。
そんなある日、ジョニーの誕生日パーティーがありました。ジニーは精一杯おめかしをして出かけようとしましたが、せっかくのドレスを意地の悪い兄弟に泥まみれにされてしまいます。それを見たジョニーは意地悪な兄弟を相手に大げんかを始めますが、あわや殴られそうになった瞬間、リーマスおじさんが止めに入ります。
すっかりしょげてしまったジョニーとジニー。リーマスおじさんはまたおとぎ話を話して聞かせます。そのおかげで元気を取り戻した2人でしたが、誕生日パーティーをすっぽかしてしまったことでお母さんはカンカン。リーマスおじさんに「二度と息子に近づかないで」と言い放ちます。
リーマスおじさんは「アトランタに行く」と言い残して、ひとりで農園を出ていってしまいました。大好きなおじさんを追いかけようとしたジョニーは、誤ってあばれ牛にぶつかり、卒倒してしまいます。
ベッドで苦しみ続けているジョニー。お母さんが話しかけても目覚めません。早く目覚めるようにと皆がお祈りをしているところに、アトランタにいたはずのお父さんがリーマスおじさんと共に帰ってきました。でもジョニーはお父さんの呼びかけにも反応しません。うわごとの様に「リーマスおじさん、帰ってきて」と繰り返すばかり・・・。
そしてついに、リーマスおじさんが部屋へと呼ばれます。誰の声にも反応しないジョニーの枕元で、リーマスおじさんがうさぎどんの話を始めました。
「うさぎどんは家に帰ってきた。”笑いの国”は自分の住む場所だったことに気づいたんだ・・・・。」
リーマスおじさんの手を握りながら目覚めるジョニー。目覚めた息子に、お父さんは「もうアトランタへは行かない」と約束します。お母さんは「ここを”笑いの国”にしましょうね」・・・。
これまでどおり農場で働くことになったリーマスおじさん。すっかり元気になったジョニーやトビー、ジニーと仲良く手をつなぎながら、今日も陽気に歌うのでした。
”ジッパ・ディー・ドゥー・ダー ジッパ・ディー・デイ こりゃ何ともいい日だ・・・”
※Youtube動画より引用
リーマスおじさんのおとぎ話
リーマスおじさんのお話には小さいけれど賢くて勇気のあるブレア・ラビット(うさぎどん)と、意地悪なブレア・フォックス(きつねどん)とブレア・ベア(くまどん)が登場します。
うさぎどんはきつねどんやくまどんにいつも狙われ、安心して過ごすことができません。そこでうさぎどんは、今の暮らしを捨てて、もっと住みやすい場所を探しに行くことにしました。家には「GONE FOR GOOD(もう帰ってこないよ)」と書かれた看板を立てて、希望を胸に意気揚々と出発です。
でもその行く手を阻むのは、いつもの通り、きつねどんとその相棒のくまどんです。
まず最初にきつねどんは、道にわなを仕掛けます。うさぎどんはそれに引っかかって木に中吊りにされてしまいますが、そこで機転を利かせます。
近くを通りかかったくまどんに、こんな風に話しかけたのです。
「カラスがニンジン畑を荒らさないように1時間1ドルでこうしてぶら下がっているんだけど、僕はもう十分稼いだから君代わりにやらない?」
きつねどんがわなを見に戻ってくると、くまどんが代わりに罠にかかっていました・・・。
いつもうさぎどんを狙っていて、隙あらば捕まえて食べてしまおうと考えている意地悪なきつねどんたちに、うさぎどんは、「笑いの国(Laughing Place)」を見に行かないか、と持ちかけます。
3匹は旅をつづけました。うさぎどんは大きな木のうろの前に来ると、「ここがぼくの”笑いの国”だよ」と言って中を覗くように促します。くまどんが覗いてみると、そこはハチの巣だらけの国。またしてもくまどんをまんまと騙せたうさぎどんは大喜び。
でも調子に乗ったうさぎどんは、後ろから忍び寄ったきつねどんに気づきません。きつねどんはハチの巣をうさぎどんにすっぽりとかぶせてしまい、とうとううさぎどんは捕まってしまいました。
いよいよ食べられそうになった時、うさぎどんはまたまた機転を利かせます。
「食べられるのはいいけれど、あのいばらの茂みにだけは投げ込まないでくれ!」
うさぎどんに意地悪をしたいきつねどんとくまどんは、それを聞いて大喜び。うさぎどんをいばらの茂みへと投げ落とします。
でもこれはうさぎどんの策略でした。いばらの中で生まれ育ったうさぎどんにとって、いばらの茂みは快適な世界。大笑いしたうさぎどんは、自分にとっての「笑いの国」が、今まで住んでいたこの場所だということに気づき、また元の家で暮らすことにしました。
うさぎどんの帰還を、森のクリッターたちも大喜びで迎えます。ジッパ・ディー・レディー号には「WELCOME HOME, BRER RABBIT」(おかえりなさい、うさぎどん)の垂れ幕が下がり、盛大なお祭りが行われたのでした。
スプラッシュマウンテンの設定
スプラッシュマウンテンの前半に延々と流れているのは、映画で使われている「Everybody has a Laughing Place」(誰にでも「笑いの国」がある)という曲。
アトラクションのスタート前には、ジョニーがリーマスおじさんにお話をせがんでいるやりとりも聞くことができます。
アトラクションは、うさぎどんの”笑いの国”探しの旅を追いかけるかたちで進んでいきます。
きつねどんやくまどんに邪魔されながらも何とか進んでいくうさぎどんですが、とうとう最後につかまってしまいます。
最大の山場は、うさぎどんがいばらの茂みに投げ込まれるシーン。これが、スプラッシュマウンテンの名物である「水しぶきを上げながらのダイブ」になっているのです。
また、スプラッシュマウンテンにはもう一つの設定があります。
その昔、クリッターカントリーには”チカピンヒル”という山(丘?)がありました。
ある日のこと、密造酒を造っていたアライグマのラケッティが、誤って蒸留器を爆発させてしまいます。
爆発の勢いはすさまじく、ビーバーブラザーズが建設していたダムも決壊し、あふれだした水がチカピンヒルの洞窟に中に流れ込みました。
あたり一面水浸しになってしまいましたが、洞窟の中には川ができ、滝のように流れ落ちるスリル満点のコースでクリッターたちは丸太に乗って川下りをするようになりました。
それがのちに、スプラッシュマウンテン(水しぶきの山)という人気アトラクションになった・・・という話です。
スプラッシュマウンテン周辺のキャラクターたちには、『南部の唄』に登場するキャラクター以外にも、クリッターカントリーのオリジナルキャラクターたちが存在します。
川下りの会社(スプラッシュマウンテンとカヌー)を経営しているのは、ダムを造ったビーバーの兄弟、クローレンスとブリュースター。クリッターカントリーの様々な建造物のほとんどは、彼らの仕事です。
密造酒造りから足を洗い、今はドリンクスタンド「ラクーンサルーン」を営んでいるのが、アライグマのラケッティ。スプラッシュマウンテンを今の姿にしてしまった張本人です。
料理上手のジャコウネズミ、サラおばあちゃんが経営しているのが「グランマ・サラのキッチン」。
二階建て構造になっている穴倉のようなお店は、ビーバーブラザーズが造りました。店内には昔のチカピンヒルの様子やクリッターたちの暮らしぶりがわかる資料が壁いっぱいに飾られています。
そしてアトラクションを利用したゲストの”スプラッシュ”の瞬間を撮影してくれる腕のいい写真家、フィニアス・ファイアーフライ。彼はホタルです。お尻がフラッシュでしょうか。
エリア内の地面には彼らの足跡がついており、辿っていくとそれぞれの住み家を見つけることができたりします。
なお、オリジナルデザインのグッズを扱う「フート&ハラー・ハイドアウト」もキャラクターの名前みたいに聞こえますが、フートとハラーはクリッター同士の合言葉のようなものだそうです。
細かい見どころがいっぱいのクリッターカントリー。ぜひじっくりと観察してみてください。思わぬ発見がありますよ。
鑑賞するのが困難な『南部の唄』
スプラッシュマウンテンと密接なかかわりのある映画『南部の唄』ですが、現在では”幻の名作”とされています。というのも、この作品に対して全米黒人地位向上協会が抗議運動を起こしたため、アメリカでは再上映はおろかDVD等の販売も行われていないからです。
抗議の理由は、この作品に登場するリーマスおじさんと白人たちとの関わりが「対等すぎるから」。
時代背景を考えたときに、黒人と白人が仲良すぎるというのが問題となったのです。誤った歴史認識を助長しかねない内容に、協会が「待った」をかけたわけです。実際にはこの時代の黒人たちはもっと虐げられて苦しめられていたんだよ、と。
日本でも手に入るのは中古ビデオ作品ぐらいのもので、それも現存するのはごく少数。観たくても観ることのできない作品となっています。
抗議の意図もわからなくはないのですが、作品自体はとても評価の高いものだっただけに、非常に残念です。
『南部の唄』という作品の世界観を知っているのと知らないのとでは、スプラッシュマウンテンやクリッターカントリーの見方も変わってきます。単なる絶叫系でくくることのできない、味わい深いアトラクションなのです。
ちなみにこの『南部の唄』(「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー」)のアレンジ曲が2019年放送のホンダN-WGN(エヌワゴン) のCMで採用されています。お茶の間で「あれ?なんか聞いたことあるんだけど・・・」と思った人も多いのでは?
2020年、いよいよ改変の手が・・・
本家ディズニー・カンパニーは2020年6月にスプラッシュ・マウンテンの改変を発表。アナハイムのディズニーランドとオーランドのマジックキングダムのスプラッシュマウンテンは今後、アニメ作品『プリンセスと魔法のキス』をベースにしたアトラクションに生まれ変わる予定だとか。
『プリンセスと魔法のキス』はディズニー史上初の黒人プリンセスであるティアナが登場する作品。評判の悪かった『南部の唄』から『プリンセスと・・・』に移行する計画のようです。
アナハイムではすでに、ショッピングモール内に流れる音楽から「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー」を外し、「ジッパ・ディー・ドゥー・ダー」を演奏するミッキーのおもちゃの販売を停止しているようです。
ひょっとしたら近い将来、スプラッシュマウンテンがあるのは東京ディズニーランドだけになるかも・・・。それとも東京ディズニーランドのアトラクションも消えてしまうか・・・。