ディズニーアニメの中で最も人気の高いヒロインといわれているのが、『塔の上のラプンツェル』の主人公、ラプンツェルです。
塔に閉じ込められて育てられてきたとは思えないほど、明るくて快活。さわやかで魅力的な女性として描かれているディズニーのラプンツェルですが、彼女の持つイメージのままで原作に挑むと「何これ、違う話?」となってしまうでしょう。
でも原作はあるのです。しかもそちらのほうが歴史上はずっとずっと有名なはず・・・。ちょっとだけ紹介します。
目次
『塔の上のラプンツェル』の原作とは?
ディズニーのアニメ作品『塔の上のラプンツェル』は、グリム童話の『ラプンツェル(Rapunzel)』をもとにして作られました。ラプンツェルというのは日本語で”ノヂシャ”とも呼ばれる野生の野菜で、葉酸を多く含んでいることから妊婦が食べるのに良いとされています。
アニメ映画の原題は『Tangled(タングルド)』で、「(糸や紙を)もつれさせる」というような意味の言葉。ヒロインが長い髪を駆使するところからでしょうか・・・。
グリムの『ラプンツェル』は、昔の童話によくありがちな、勧善懲悪がキツめのダークファンタジーです。
原作『ラプンツェル』のあらすじは?
グリム童話『ラプンツェル』のあらすじを簡単に紹介すると・・・。
大きなお腹をかかえた妻は「ラプンツェル(食用野草の一種)が食べたい」と夫に頼みます。
つわりで何も食べられず衰弱していく妻を見かねた夫は、仕方なく、魔女の森にラプンツェルを採りに行きます。
「ラプンツェルを持ち帰る代わりに、生まれた赤ん坊を魔女に渡す」
というもの。
なんと男は、その条件を飲んで妻の元に帰ります。
魔女に誘拐された子供は「ラプンツェル」と名付けられ、塔のてっぺんで育てられます・・・。
魔女はその髪をはしご代わりにして塔を登り下りしていました。
魔法使いと同じ方法を使って塔に登る王子・・・。
しばらくして何も知らずに塔へやってきた王子・・・。
魔女から話を聞いてショックを受けた王子は、塔から身を投げます。
命は取り留めましたが、いばらの棘で目をやられて失明してしまいました。
盲目のままずっと荒野をさまよっていた王子は、森の中で男女の双子といっしょに暮らしているラプンツェルにめぐり会います。
ラプンツェルの流した涙が王子の目に入ったその時、王子の傷ついた目が奇跡的に回復します。
原作のストーリーはディズニーアニメとはかなり違います。興味があったら探してみてください。ただし子供にも大人にも、ディズニーの物語のほうが面白いのは間違いありません。
原作とディズニー映画の違いは?
原作の『ラプンツェル』に限らず、昔の童話にはあまり強い女性は登場しません。たいていの場合、強いのは男性です。王子だったり、強い兵士だったり、勇者だったりします。
ディズニー映画『塔の上のラプンツェル』は、近年のディズニー作品らしく「強い女性像」が描かれています。ラプンツェルは自由奔放でエネルギッシュでアクティブ。その上、原作にはなかった「もともとはコロナ王国の王女様だった」というのも、原作とは正反対の設定です。
原作は日本では「髪長姫(かみながひめ)」という名で出版されたこともあり、ラプンツェル自身、髪が長いこと以外にあまり特徴がありません。
ディズニー的には、物語をもっと膨らませる必要があります。彼女をヒロインにするためには、単に髪が長いだけではダメ。なので、その髪に特殊な意味を持たせました。
美しい髪には「若返り」という魔法の力が秘められており、魔女であるマザー・ゴーテルはそれを独り占めしてきたヴィラン(悪役)という設定に。
こうすることでドラマチックで感動的なストーリーにすることに成功しています。
ついでにラプンツェルの相手役フリン・ライダーは王子様でもなんでもなく、ただの泥棒です。その上、ラプンツェルよりも8歳も年上だとか・・・。まあ、ラプンツェルがOKならいいんですけど。
映画『塔の上のラプンツェル』には続編も
映画『塔の上のラプンツェル』には2つの続編があります。
ひとつは『ラプンツェルのウェディング』という作品。ラプンツェルとフリンの結婚式の裏で繰り広げられるパスカルとマキシマスによるドタバタ劇で、7分間の短編です。
もうひとつは廉価版アニメ作品で『ラプンツェル あたらしい冒険』というもの。なんと、彼女の金色の長い髪が復活します。これはこれで、さらに続編をきちんと作ってもらいたいような気も・・・。
『五日物語』の『ペトロシネッラ』
実は『ラプンツェル』には、さらにもとになる話があると言われています。それは17世紀はじめに書かれたイタリアの民話『五日物語』(ペンタメローネ)の中の一編、『ペトロシネッラ』です。
『五日物語』自体かなり面白い話なのですが、あまり知られていません。その中に登場する『ペトロシネッラ』とは「パセリっ子」のような意味。
母親が身篭っている時に自ら盗んで食べたのは、鬼女が栽培するおいしそうなパセリでした。
パセリを盗んだとして鬼女は生まれてくる子を自分によこすように言います。
やがてかわいい女の子が生まれ、ペトロシネッラと名付けられます。ペトロシネッラの胸には、パセリの形をしたあざがありました。
ペトロシネッラが7歳になったとき、鬼女は彼女をさらって塔のてっぺんに閉じ込めます。
それから月日は流れ、ペトロシネッラの美しい髪が長くのびて塔の下まで届くようになった頃、王子が通りかかります・・・。
王子とペトロシネッラが恋仲になるのはグリムの『ラプンツェル』と同じ。
その後、脱走に踏み切ったペトロシネッラと王子を鬼女が追いかけ、物語の長いクライマックスが始まります。まさに手に汗握るチェイス。これは『ラプンツェル』にはない見どころです。
まとめ
『塔の上のラプンツェル』は素敵な作品で、何回見ても楽しめます。ラプンツェルと彼女の長髪をあれだけ魅力的に描けたのは、やはりディズニーの3Dアニメーション技術の高さゆえでしょう。
原作となった『ラプンツェル』や、さらにその原作になったと思われる『ペトロシネッラ』は全く違う物語と思えるかもしれません。
でも『塔の上のラプンツェル』の製作総指揮を務めたグレン・キーンは14年もの長い間ストーリーを練っていたそうで、当然ながらこの原作を読んで知っていたでしょう。
『塔の上のラプンツェル』をさらに深く知りたいと思ったら、やはり原作に触れてみる必要があるのではないでしょうか。
昔から伝わる物語には、それはそれで独特の魅力があると思います。