東京ディズニーランドには「トムソーヤ島」という島があります。ウエスタンランドにあるこの島は、特に小さいお子さん連れのファミリーなどに人気のスポットなのですが、意外とその魅力が知られていない場所でもあります。
「いかだに乗って島に渡るだけでしょ?」とスルーしてしまうなんてとんでもない!
いろいろな意味で”穴場”なので、予備知識を頭に入れて、あらかじめ見どころを把握しておけば、他のアトラクション以上に高い満足感が得られると思います。
なおアトラクションはあくまでも「トムソーヤ島いかだ」のことで、トムソーヤ島そのものはアトラクションという扱いではありません。
原作となった作品
「トムソーヤ島いかだ」および「トムソーヤ島」の元ネタは、世界的な児童文学である『トム・ソーヤーの冒険』です。『トム・ソーヤーの冒険』はアメリカの作家マーク・トウェインによって1876年に発表されました。
物語の内容をざっと紹介すると・・・。
トム・ソーヤー(トマス・ソーヤー)は育ての親であるポリー伯母さんと暮らす活発な少年。勉強のできる弟シッド(シドニー・ソーヤー)と違い、いたずらや冒険に明け暮れる日々を過ごし、伯母さんから怒られてばかりいます。親友は”宿無しのハック”ことハックルベリー・フィン。憧れのマドンナは判事の娘で同級生のベッキー・サッチャー(レベッカ・サッチャー)。
物語はトム、ハック、ベッキーを中心に展開します。セント・ピーターズバーグという小さな村でトムたちが繰り広げる、楽しい冒険といたずらの日々が面白おかしく綴られています。
ある晩トムはハックと共に、墓地で行われる殺人事件を目撃してしまいます。犯人は町に住むならず者のインジャン・ジョー。ジョーは泥酔していた仲間に罪をかぶせようとしましたが、裁判の場で一部始終をトムに証言され、その場から逃走してしまいます。
夏休みに入ってまもなく。ハックの新しい住み家を求めて2人は”化け物屋敷”と呼ばれている空き家に入り込み、そこでインジャン・ジョーがお宝を発見するのを目撃してしまいます。2人はインジャン・ジョーに見つかりそうになりながらも何とか難を逃れます。お宝を別の場所に隠しにいくインジャン・ジョーの後を追いますが、見失ってしまいます。
それからしばらくして。もうすぐ夏休みも終わろうというある日、トムとベッキーはピクニックに行った先で、マクドウガルの洞窟で遊んでいるうちに迷子になってしまいます。迷路のような洞窟の中をさまよっていると、あろうことか、洞窟内にはあのインジャン・ジョーがいたのです。
インジャン・ジョーに見つかってしまった上に、恐怖のあまり気絶してしまったベッキーをかかえて、トムたちはいよいよ絶体絶命・・・と思われた瞬間、2人を探しに来た警官のおかげで危機を脱します。インジャン・ジョーは警官に追われて洞窟の奥に逃げ込みますが・・・。
後日トムとハックは、インジャン・ジョーがお宝を洞窟に隠していたのではないかと考え、再び洞窟に入ります。迷い迷った末、ついにインジャン・ジョーが隠していたお宝を発見。2人は一夜にして大金持ちになりました。
もちろん、お金持ちになったからと言ってもトムたちの日常は何も変わりません。その後もいたずらや冒険に明け暮れる日々を過ごすのでした。
夢とスリル満点の、奇想天外な冒険物語は、子供たちを熱中させたばかりでなく、大人たちにも好評でした。幾度となく映画化・アニメ化され、幅広い層に愛されています。
トム・ソーヤーの冒険(上)新版 [ マーク・トウェイン ]
|
日本でも1980年に、アニメ作品として世界名作劇場『トム・ソーヤーの冒険』が放送されていました。ご覧になった記憶のある方も多いと思います。
トム・ソーヤーの冒険 DVDメモリアルボックス [ マーク・トウェイン ]
|
ディズニーランドの「トムソーヤ島いかだ」
ディズニー社が『トム・ソーヤーの冒険』を実写映画化したのは1995年で、ディズニーランドができてからずっと後のことです。それまでに映像化したことはありません。
ディズニーランドに「トムソーヤ島いかだ」というアトラクションと「トムソーヤ島」、またそれを囲む川を走る「蒸気船マーク・トウェイン号」が設けられているのは、ウォルト・ディズニーが『トム・ソーヤーの冒険』の世界観をこよなく愛していたからだと言われています。「トムソーヤ島」はウォルトが直接設計した唯一のアトラクションだということもあり、その情熱とこだわりが随所に現れています。
マーク・トウェイン号という名称はもちろんのこと、トムソーヤ島内につくられた”サムクレメンズ砦”も、マーク・トウェインの本名”サミュエル・ラングホーン・クレメンズ”にちなんで付けられています。
4基用意されている”トムソーヤ島いかだ”には、それぞれ「トム・ソーヤ」「ハック・フィン」「ベッキー・サッチャー」「インジャン・ジョー」という文字が。ただし4基が同時に稼働していることはなく交代制。一度に全種類を目にすることはありません。
いかだが着岸する場所は2か所。「開拓者の船着場」と「トムの船着場」です。通常は「開拓者の船着場」が使われます(セトラーズ航路)が、大混雑の時などは大回りして「トムの船着場」に着くこともあるそうです(トムズ航路)。何度も乗らないと経験できないかもしれませんね。
ちなみにこの「トムソーヤ島いかだ」、見かけは”いかだ”ですが、その実態はエンジンの付いた55人乗りの動力船。マーク・トウェイン号とともに国交省の認可を受けた立派な船舶です。
島内には、名所の一つである”インジャン・ジョーの洞窟”があります。正直、入るのに躊躇するくらい薄暗い入口なのですが、中に入ると「マジで?」というくらい本格的な洞窟です。
トムやベッキーと違って迷うことはないにしても、この薄暗さは小さいお子さんには怖すぎるかも・・・。これはお父さんお母さんの頼もしさをアピールするチャンスです。
洞窟内には「十字架の下に眠る金貨の箱」が隠されているとのこと。岩に掘られた十字のマークを見つけることができれば、その下にちょっとだけはみ出している金貨を発見できるでしょう。
島のシンボルでもあるキャッスルロックに登ると、ウエスタンランドが一望できます。水が噴き出すしかけのあるどくろ岩や、隠しアイテム満載の洞窟も見逃せません。
洞窟に入ってすぐの壁に、秘密のアイテムの隠し場所の地図が描かれています。でも、大人の目線で探すのはかなり難しいでしょう。お子さんにスモールライトを持たせて自由に探索させるか、童心に返ってスマホのライトか何かを頼りに、主に下の方を探してみるといいでしょう。
三葉虫の化石や謎のタマゴ、これまた謎の生き物の手など・・・、苦労して探してようやく見つけられた時のうれしさは、子供も大人もきっと同じです。
トムソーヤのツリーハウスは、物語にも登場する木の上の小屋で、原作ではトムが宿無しハックのためにつくった家です。のこぎりや金づちをトムに持っていかれて困った召使いのジムも、仕方なく手伝いました。
遊び心いっぱいのトムソーヤ島は、まだまだほかにも見どころがいっぱい。わざわざいかだに乗って渡る価値は十分にあります。
ちなみに島内のその他の場所の名前の意味はこんな感じ。
スマグラー入り江→密売人の入江
ティータートッター岩→シーソー岩
ハックルベリー沼→ハックルベリー・フィンの名から
ハーパーの粉ひき小屋→トムのクラスメイトのジョセフ・ハーパーの父親にちなんで
ここで余談ですが・・・。
島の外れに”燃える小屋”(バーニングキャビン)というのもありまして・・・。
ランド開業以来ずっと燃え続けているという、ある意味”名物”となっている”燃える小屋”は、別名”クロケットキャビン”と呼ばれ、アメリカ西部開拓史の勇者デイビー・クロケットが建てた小屋だという設定があるようです。
ただし、この”燃える小屋”は、残念ながらトムソーヤ島にあるのに、トムソーヤ島からは見えません。この小屋を見るためには・・・。
余談をもう一つ。
現在はクリッターカントリーに所属するアトラクション「ビーバーブラザーズのカヌー探検」ですが、開園当初は「デビークロケットのカヌー探検」という名称が付けられていました。
ウォルト・ディズニーの頭の中では、デイビー・クロケットはウェスタンランド(TDL以外ではフロンティアランド)の顔であり、真の主役であります。これはウォルト・ディズニーに限ったことではなく、一般的にデイビー・クロケットはアメリカでは英雄として愛されています。実際ディズニーは、デイビー・クロケットを主人公にしたディズニー社初の西部劇『デイビー・クロケット 鹿皮服の男』を1956年に制作しています。
西部の英雄デイビー・クロケットの名を様々な形で残したいとウォルトは考えたのでしょうか。ウエスタンウエア(ウエスタンランドにあるショップ)にはクロケット帽が販売されていますし、『カントリーベア・シアター』では座長のヘンリーが「デビークロケットの唄」を高らかに歌い上げます。
おまけに・・・
トム・ソーヤが直接登場することのない「トムソーヤ島いかだ」ですが、一か所だけトムの痕跡がわかる場所があります。これを見逃す人も多いので紹介しておきます。
とある場所に、ペンキを塗りかけたままの壁があります。
原作では、トムがいたずらの罰として、土曜日の朝に塀のペンキ塗りをさせられる話があります。しぶしぶペンキを塗っていたトムですが、からかいに来たクラスメイト達に対してわざと楽しげに振る舞い、こんなことを言い出します。
「こんな楽しいことは他の人には譲れないね」
それを聞いたクラスメイト達は、自分もやってみたくなり、トムにリンゴや凧などと引き換えにペンキ塗りをさせてもらうという、おかしな状況に・・・。
ディズニーランドのトムは、ペンキ塗りを途中ですっぽかして、ベッキーといっしょに釣りに行ってしまったようです。相変わらずのやんちゃなトムですね。
島に上陸できるのは、開園の1時間後から日没までと決められています。
サムクレメンズ砦の中にはドリンクショップ「キャンティーン」があり、またトイレも用意されています。さらにその奥にはインディアン居住区があるのですが、ここのベンチが小休止するのに最適な穴場で、混雑時でも意外と空いています。
「トムソーヤ島いかだ」で行く、トムソーヤ島への冒険旅行。ドキドキワクワクするような体験や新しい発見が待っているかもしれません。とくに小さなお子さん連れのファミリーは、時間を十分にとって訪れることをお勧めします。