ディズニーの不朽の名作『アラジン』。アラン・メンケン作曲の名曲とともに、ディズニーアニメの超人気作品のひとつとして長年にわたり愛され続けています。
ブロードウェイ・ミュージカルとしても大ヒット。国内では劇団四季が公演しています。2019年には実写映画化され、ウィル・スミス演じるジーニーが話題になりました。
アクション&アドベンチャー&ラブロマンスの娯楽作品として大人気の『アラジン』ですが、もちろんディズニーのオリジナルではありません。でも近年は原作となった『アラジンと魔法のランプ』の話を耳にすることもなくなりましたし、それが『千夜一夜物語』という物語集の中の一編だということも忘れられつつあります。
この記事では、大ヒット作品『アラジン』の元となった偉大な原作にスポットを当ててみました。こんな話なんだ、と興味を持ったらぜひ原作も読んでみてくださいね。
目次
殺されないために夜ごと語り続けた王妃の話
『千夜一夜物語』(せんやいちやものがたり)はイスラム圏で生まれた説話集です。『ハザール・アフサーナ(千の夜)』とか『アラビアン・ナイト』という名で呼ばれることもあります。
『千夜一夜物語』は、とある国王に嫁いだ娘が1000日もの間、夜ごと王に話して聴かせたたくさんの物語を集めたもの、ということになっています。
この国王はペルシアとインドと中国を治めていた権力のある王でしたが、前妻の浮気がもとで女性全般に強い憎しみを抱いており、街の若い娘を次々に召抱えて一夜を過ごしては、その翌朝に処刑していました。
その悪習を食い止めるべく自らの意思で嫁いできたのが、大臣の娘・シャハラザード(シェヘラザードとも)。シャハラザードは最初の夜、王に物語を話して聴かせます。
王はその物語に夢中になりましたが、一番いいところでシャハラザードは話すのを止め、「続きは明晩」「明日はもっと面白いですよ」と王にささやきます。
王は話の続きが知りたいがために、シャハラザードを殺さずに生かすことにします。それから毎晩、シャハラザードの命がけの物語が1000日続いた、というのが『千夜一夜物語』なのです。
『アラジン』は物語全体の、ほんの一部
『アラジンと魔法のランプ』は『千夜一夜物語』で語られる話のひとつです。物語のおおすじはアニメ作品と大きな違いはありませんが、次のような点が異なっています。
1.アラジンは「超」怠け者
原作に登場するアラジンは、中国のとある街に住んでいる怠け者の青年です。魔法使いにいいように使われて洞窟に入れられ、そこで魔法のランプを手に入れます。全て他力本願で、努力することもなく、魔法の力で幸せになります。
2.「ランプの精」以外に「指輪の精」もいる
原作には「ランプの精」以外にも、魔法が使える「指輪の精」が登場します。悪い魔法使いにランプを盗まれても、指輪の精がアラジンを助けてくれました。
3.願い事は3つまで、ではない
原作に登場するランプの精も指輪の精も、叶えてくれる願いの回数に制限がないという大盤振る舞い。ジーニーと違って自由になりたいわけでもなく、ただひたすら魔法で願いを叶え続ける下僕です。
4.ジャスミンには婚約者がいる
原作のお姫様の名はバドル・アル・ブドゥル。彼女には婚約者(大臣の息子)がいます。王様もこの婚約者と娘を結婚させようとするのですが、アラジンが魔法の力を借りてお姫様と婚約者を拉致し、脅し、婚約者に結婚を辞退させます。
目的のためなら手段を選ばないアラジン。全然かっこよくありません。
5.アラジンはお母さんと暮らしている
原作のアラジンはお母さんと二人暮らし。腕の良い仕立て屋だったお父さんは、アラジンの怠け者っぷりを心配するあまり、病気で死んでしまいます。
お母さんは物語の中に何度も登場します。ランプを最初に磨いてランプの精を呼び出してしまったのもお母さんでした。ランプの精を見たお母さんは気を失ってしまいます。
6.ランプの精はアラジンを叱ることも
ご主人様の願いを何でもかなえてくれるランプの精ですが、物語の終盤にはアラジンを叱りつけるシーンも。
アラジンから「ロック鳥の卵を採ってきて部屋の天井へ吊るせ」と言う命令を受けたランプの精は「この大ばか者!」とアラジンを叱り、悪い魔法使いにだまされていることを教え諭します。このおかげで物語はハッピーエンドに向かいます。
アラジンが悪い魔法使いの思惑通りにロック鳥の卵を部屋に吊るしていたら、お姫様ともどもロック鳥に食べられてバッドエンドになっていたかもしれません。
7.魔法のじゅうたんもアブーも出てこない
原作には魔法のじゅうたんは登場しません。アラジンの相棒である猿のアブーも、ジャファーの手下であるオウムのイアーゴも出てきません。このあたりはディズニーらしいアレンジと言えます。
ちなみに『千夜一夜物語』の中で魔法のじゅうたんが登場するのは、「アフマッド王子と妖精パリ・バヌー」という物語だけです。
千夜一夜に語られるその他の物語
『千夜一夜物語』には「アラジンと魔法のランプ」の他にも有名な物語や面白い話・不思議な話がたくさんあります。
「アリ・ババと40人の盗賊」
「船乗りシンドバードの物語」(シンドバッドの冒険)
「ジャスミン王子とアーモンド姫の優しい物語」
「詩人アブー・ヌワースの事件」
「ジャアファルとバルマク家の最後」
ジャスミン、アブー、ジャファーなどの名前は、それぞれ他の物語の登場人物からとったものなのかもしれません。
さいごに
『千夜一夜物語』に登場する話は、どれも奇想天外な物語ばかり。人は昔から非日常を感じさせてくれる物語が大好きなんですね。
『千夜一夜物語』は教訓が得られる話でも勧善懲悪の話でもなく、理不尽な結末だったりするものも多いのですが、その中でも『アラジンと魔法のランプ』は比較的”子ども向け”の作品になっています。
せっかくディズニーの『アラジン』という名作に出会ったのですから、これを機に昔の名作『千夜一夜物語』(アラビアン・ナイト)の世界に触れてみるのもいいかもしれませんよ。